公開日 2023.03.28
住民ボランティアによるフレイルチェック活動
介護予防では、高齢者一人ひとりが自身の健康増進や介護予防についての意識を持ち、健康の維持・増進に向けた取組を主体的に行うことが重要です。
東京大学高齢社会総合研究機構が千葉県柏市と共同で開発した 「住民ボランティアによるフレイルチェック活動」 は、フレイル状態に陥る危険性(リスク)を総合的にチェックし、その予防についての意識を高め、具体的な行動変容を促す取組です。
(詳しくは➔ 飯島研究室 – いつまでも元気でいるために、だから今からフレイル予防 (u-tokyo.ac.jp) )
2023年2月現在、全国26都道府県の96自治体で実施されていますが、沖縄県では北中城村が2019年から取組んでいます。今回、北中城村における活動を取材しました。
■ 北中城村のフレイルチェック活動について
北中城村役場・福祉課高齢者福祉係の田里淳子(たさとじゅんこ)係長にお聞きしました。
【田里さん】 北中城村では2019年からフレイルチェック活動に取組んでいます。当時、私は別の部署にいたので細かい経緯は分からないのですが、厚生労働省のホームページに東京大学高齢社会総合研究機構・飯島勝矢教授が作成したフレイルチェック活動の資料を読んだことがきっかけだったそうです。この活動は、「エビデンスに基づく効果的な介護予防の取組であること」、「住民ボランティアによる主体的な活動であること」、「男性の参加者が多いこと」などが特徴で、北中城村における住民主体の介護予防事業を効果的に進めるために導入することになりました。
東京大学高齢社会総合研究機構に連絡を取り、実際に活動をスタートするまで様々なサポートをしていただきました。先ず、実際に取組んでいる和歌山県紀の川市を紹介していただき、2019年3月に視察を行い、住民ボランティアの皆さんや行政職員から具体的なことを教えていただきました。その後、準備を進め、8月に同研究機構の神谷哲朗先生を招いて住民向けスタートアップ講演会を開催し、機運を盛り上げていきました。
東京大学高齢社会総合研究機構が開発したフレイルチェック活動は、エビデンスを蓄積するために、2日間のボランティア養成研修を修了して「フレイルサポーター」の認定を受けた者が実施することや、フレイルチェックのデータを同研究機構と共有することになっています。そこで、2019年10月に神谷先生と紀の川市から2名の住民ボランティアにも来ていただき養成研修を実施、22名のフレイルサポーターが誕生しました。
フレイルサポーター養成研修修了者(2019年)
【田里さん】 北中城村では、「住民ボランティアによるフレイルチェック活動」 を一般介護予防事業の介護予防把握事業に位置づけて取組んでいます。高齢者が自分自身の「フレイル状態に陥る危険性」を早期に把握し、主体的に介護予防活動に取組むためのきっかけとして効果的だと考えています。また、フレイルや介護予防について住民の関心を高めるための介護予防普及啓発活動にもなっていると思います。
フレイルサポーターの皆さん自身がフレイル予防・介護予防についての意識が高くなり、この活動を行うことが社会参加の機会になっているという側面もあります。北中城村の住民の皆さんは、健康づくりや地域づくりに協力される志のある村民が多く、村の財産だと思います。
また、「住民ボランティアによるフレイルチェック活動」 は、全国の実践から得たデータを東京大学高齢社会総合研究機構で収集し、フレイル状態になる要因の分析や予防策の研究も同時に行っています。このような科学的根拠に裏付けされたフレイルチェックと指導方法のノウハウがあるため、フレイルサポーターの皆さんが自信を持ってチェックを受けた住民に説明をしているところが面白いと思います。
これからもこのフレイルチェック活動を積み重ねていくとともに、2回目のフレイルサポーター養成研修も検討したいと思います。
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■ 「フレイルチェック活動」 の実際
2023年1月25日、屋宜原(やぎばる)公民館で活動している自主体操サークルのメンバー等5名を対象に行ったフレイルチェック活動を見学しました。
フレイルサポーター7名が主となり、役場の介護予防担当者2名が協力して、約2時間をかけてフレイルチェックと結果の説明を行いました。
フレイルチェック活動の流れ
1.オリエンテーション、「フレイルって何だろう?」の講話 | 約15分 |
2.簡易チェック (①指輪っかテスト、②イレブンチェック) | 約20分 |
3.深堀りチェック(測定項目) (③滑舌測定、④片足立ち上がり、⑤ふくらはぎ周囲長、⑥握力、⑦体組成計測定) |
約30分 |
4.深掘りチェック(質問項目) (⑧お口の元気度、⑨人とのつながり、⑩組織参加、⑪支え合い) | 約25分 |
5.結果説明とフレイル予防のために心がけることのアドバイス | 約15分 |
6.アンケート記載
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約10分 (合計約2時間) |
青シールと赤シール(危険信号)を自身で貼っていきます
フレイルチェックは、<簡易チェック、深堀りチェック(測定項目)、深堀りチェック(質問項目)>の22項目を行います。測定結果や質問への回答について、「既にフレイル状態にある」場合や「フレイルになる危険性が高い」場合は赤シールを、問題ない場合は青シールを高齢者自身が結果表に貼っていきます。「自分自身でシールを貼る」ことがポイントで、フレイル兆候に気づき、フレイル予防の意識を高めることに役立つそうです。
ふくらはぎ周囲長の測定
立ち上がりテスト
結果説明、フレイル予防のアドバイス
フレイルチェック活動は、全国で統一された書式を用い、正確な測定を行うのが特徴です。それによって信頼性の高い結果を得て、適切なフレイル予防のアドバイスを行うことができます。
■ フレイルサポーターの皆さんにお話を伺いました
【安里晴美(はるみ)さん】 私は地域の自主体操サークルの世話人もしています。地域でフレイルを出さないためにフレイルサポーターとしての活動を行っていますが、何より自分自身の健康のために活動しています。現在、北中城村フレイルサポーターは19名で、毎月第3金曜日に定例会を行い、実践の練習を行っています。せっかく、フレイルチェック活動の知識や技術を学んだのに、それを活かせないのはもったいないと思い、できる人で継続して集まっています。
【安里幸男(ゆきお)さん】 フレイルチェック活動は世のため、人のための活動だと思っています。老人クラブやシルバー人材センターでの活動と同じようにフレイルサポーターの活動も社会参加の一つ。先日、屋宜原公民館フレイルチェック活動に向けた練習会に、久しぶりに参加しました。その際、私の体力が以前より衰えているのに気づかされました。定期的に集まることで、自分自身の健康状態を確認できるので、今後も参加したいです。また、フレイルチェック活動があることで、高齢者が外出するきっかけにもつながる。今回、参加された方が「フレイル予防」について学んだことを周囲の方へ伝えて欲しいと思います。
【森田美佐子(みさこ)さん】 私の住む地域には自主体操サークルがなかったのですが、フレイルサポーターの研修に参加したことがきっかけで、自主体操サークルの必要性を感じ、フレイル予防のために自主体操サークルを立ち上げました。「フレイル予防」について、北中城村民への周知はまだまだ不十分だと思います、地域のフレイルチェック活動を通して、フレイル予防の大切さを伝えていきたいです。
今回のフレイルチェック活動に参加された屋宜原地区の皆さんからは、
「色々と勉強になりました。自分の健康を考える良い機会になりました。今日、習ったことを自宅でも継続していきたいと思います」
「楽しかったです。1年に1回はフレイルチェックをして、今回赤シールだった項目が次回は青シールに変わるように日頃からフレイル予防に取組みたいと思いました」
との声をお聞きしました。
《取材感想》
沖縄県で唯一、「住民ボランティアによるフレイルチェック活動」 を実施している北中城村を取材しました。フレイルサポーターの皆さんが「フレイル予防」の大切さを理解し、地域の高齢者のためにフレイルチェック活動をボランティアで行っていることに感心しました。皆さんは「自分自身の健康のために」ともおっしゃっていましたが、これはまさに「互助による介護予防活動」だと思いました。
また、チェックを受ける高齢者からすると、自分と同じ世代のフレイルサポーターの皆さんが、フレイル予防の取組について自身の体験を話してくれるため、フレイル予防をより身近に考えられるのではないかと思いました。
「住民ボランティアによるフレイルチェック活動」に興味を持ち、導入する市町村が沖縄県内で増えることがあれば嬉しく思います。取材にご協力いただいた北中城村フレイルサポーターの皆さん、役場福祉課高齢福祉係の皆さん、ありがとうございました。
(介護広域・渡慶次)