公開日 2024.03.29
■モデル事業実施の経緯
広域連合の構成29市町村のうち、人口5,000人以下の小規模市町村はすべて離島および北部3村(国頭村、大宜味村、東村)となっており、そのような自治体では特に少子高齢化が進み、すでに医療および介護人材の不足が顕在化しているところも多くあります。
そのような地域では、その限られた資源で地域包括ケアシステムを構築していく必要がありますが、国が示した地域包括ケアの考え方がそのままの形では適用できないのが現状であり、そのため健康や介護を理由に村/島を離れざるを得ない方が少なくありません。
そこで、過去1年間に健康や介護を理由に村/島を離れた方の実態を調査し、どのような支援やサービスがあれば住み慣れた地域で暮らし続けることが出来たかを検討することで、地域包括ケアシステムの構築につながるのではないかと考え、広域連合が沖縄県の事業として、三菱UFJリサーチ&コンサルティング社の支援を受け令和4年度よりモデル事業を実施し、国頭村、大宜味村、伊江村が参加しました。
■調査の概要
1.対象者
その市町村に居住していた高齢者で、要支援および要介護等のうち、過去1年間(今回の調査では2022年1~12月)に村/島を離れた方
2.調査方法
①行政および包括等で把握している情報の抽出
②担当ケアマネジャーへの照会
③民生委員や自治会長等への聞き取り など
3.調査項目
①性別、年齢、要介護度等の基本情報
②サービスの利用状況
③移住のきっかけ
④キーパーソン
⑤移住の主な理由
⑥どのような支援があれば、より長い期間村/島に住み続けることが出来たか など
上記の内容を調査票に落とし込み、調査結果の整理分析をそれぞれの市町村が把握しやすい方法で行い、その結果から「どのような支援やサービスがあれば、村/島に住み続けることが出来たか」の可能性を検討しました。
そして市町村としての方向性を検討し続けることで、その地域の実情に合った地域包括ケアシステムを築き上げていけるのではないかと考えています。
■総括研修-市町村報告-
前述のとおりモデル事業の中で、調査→整理分析→可能性の検討→市町村の方向性の検討を重ね、令和6年3月7日、2年間の集大成となる総括研修を実施し、各モデル市町村の報告および三菱UFJリサーチ&コンサルティング社の岩名氏を交えてのパネルディスカッションをしました。
ここでは、その内容を抜粋してお伝えします。
大宜味村
1.調査対象期間:2020年~2022年(2020~2021年については追加調査)
2.村を離れた方:74名(3年間合計)
3.調査結果:
①自立している方が多く、また単身世帯が多い
②転出理由は「仕事関係」「家族と暮らす為」がほとんど
③転入後、3年以内に村を離れるケースが多かった
④どんなサービスや支援があれば住み続けることが出来たかは「医療の充実」「泊まりのサービス」等が多かった
大宜味村 野原侑也さん
4.今後の方向性:
①関係者と在宅限界点について意見交換する機会を設ける
②特養および診療所の医師と意見交換の機会を設ける
③高齢者の住まいの確保について、先進自治体の情報を収集する
④今後ますます不足していく社会資源をどう確保するか、先進自治体の情報を収集する
国頭村
1.調査対象期間:2022年
2.村を離れた方:41名
3.調査結果:
①軽度者(事業対象者~要介護2)の転出が多い(33名)
②移住のきっかけは「病気16名」「救急搬送8名」が多かった
③転出先の居住は「老健」「有料老人ホーム」「特養」などが多かった
④転出理由は「村内の施設や医療機関での対応が難しくなった」「単身での在宅生活が困難になった」などがあった
⑤どんなサービスや支援があれば住み続けることが出来たかは「施設の整備」「訪問・通所サービスの充実」等が多かった
国頭村 中村ルミ子さん
4.今後の方向性:
①退院後の居住先について、家族との情報共有を図る
②転出の際にその理由を聞き取ることで今後の取り組みに活かす
③地域の空き家を活用したシェアハウスが出来ないか関係機関と連携を図る
伊江村
1.調査対象期間:2022年~2023年(2023年については追加調査)
2.島を離れた方:60名(2年間合計)
3.調査結果:
①島に残れる可能性があった方は中重度者よりも軽度者の方が多かった
②移住のきっかけは「救急搬送」「病気」が多い
③どんなサービスや支援があれば住み続けることが出来たかは「泊まりを中心としたサービス」「医療の充実」が多かった
伊江村 下山昭子さん
調査し整理分析していく中で、新規認定申請後そのまま施設や有料老人ホーム等に入居したケースや村内の在宅介護の状況について把握できていないことが分かり、居所の調査を実施。その結果、要介護等認定者277名のうち71名が島外に居住していることが分かった。
島内では在宅が最も多く、島外では老健施設や有料老人ホームに居住している方が多いことが分かった。
さらに2023年4月に入居受入を開始した有料老人ホームの影響により島を離れる方が減ったのかを検証するため翌年(2023年)の調査を実施したところ、前年と比較し島を離れた方は半減していた。
その中でサービスや支援の充実があっても島に残るのが難しい理由として、「島内にキーパーソンがいない」がほとんどであった。
2年間の調査の結果から、ショートステイが通常運用されたことと、有料老人ホームが受入開始したことで島を離れる方は減ってきている。
4.今後の方向性:
①介護予防、重症化予防の強化
②訪問看護等の看護機能サービスの構築
③キーパーソンが島外にいる方への支援の検討
④本島の医療機関の相談員が包括に相談しやすいようにホームページ等の活用
⑤今回の調査の結果などを地域ケア推進会議にて報告し、訪問看護などの医療を中心としたサービスの充実を図る
■総括研修-パネルディスカッション-
大宜味村:北部3村合同で訪問看護等を実施した場合、経営面で不安があるが、補助など行政が支援できることはあるか?
岩名氏:兵庫県で定期巡回サービスの利用者が増えるまで家賃や人件費の補助をしている。そういった補助メニューを条例で定めたり県の補助を活用するということが考えられるが、その前に訪問看護だけをしてもらうのではなく、入退院時の伴走など仕事をシェアできる体制を整えることを検討した方がよいのではないか。
北部3村はそれぞれで実施するのではなく、合同で実施することを議論していただきたい。
国頭村:県外の病院の協力を得てミニデイにリハ職を派遣し体操等を実施している。リハビリの需要が高いということで、地域づくりの一環として今後も継続したいと考えている。
岩名氏:専門職の活用について、より最適な場所にマンパワーを投入するというのが基本的な考え方となるので、通いの場に入り続けるのはもったいない。より効果的な活用を検討していただきたい。
伊江村:国頭村や大宜味村でも経管栄養の問題で転出したケースがあると聞いたが、特養で経管栄養や痰吸引の登録がされていないということなのか。
岩名氏:そこは行政が支援してあげる他ないのではないか。
伊江村:伊江村では特養は登録しているが、在宅で経管栄養が必要になった場合、その度に診療所の看護師を呼ぶ訳にもいかない。今後村内で研修ができる事業所の登録をしていきたい。
パネルディスカッションの様子
■広域連合所感
小規模市町村は医療・介護の人材や資源が不足していることや行政や包括職員のマンパワーも十分でないことなどから、地域包括ケアシステムの構築についてどう考えていけばいいかということが分からなかったり、またその余裕もないのが現状です。
この2年間を通して、モデル市町村は業務多忙な中、小規模市町村でも構築できる地域包括ケアシステムについて考え、今後の方針を言語化できたことが何よりの成果だと感じています。
今後は近隣の市町村およびその関係者と協働で事業やサービスの展開、医療介護連携を含めた地域包括ケアシステムの構築について検討していくことが必要ではないかと感じました。
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